過去の大会

日本温泉科学会第66回大会概要

 日本温泉科学会第66回大会は、平成25年9 月4日(水)から7日(土)の4日間、福島県二本松市岳温泉の陽日の郷(ゆいのさと)あづま館を会場に開催された。岳温泉で開催することになったきっかけは、大会運営委員長の井上が近隣の大玉村出身で、小学生の頃から子供会で何度もこの温泉を訪れていた思い出の場所であることと、地元が2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と原発事故による放射能汚染とその風評被害を受けていることに対する支援の一助になればと考えたことによる。福島県における本学術大会の開催は、昭和28年(1953)の飯坂温泉以来で実に61年ぶりになる。学術研究発表29件、公開パネルディスカッション「温泉資源の保護と地熱発電の共生を探る」および公開講演「温泉・健康・美容」が開催された。また、各種委員会は9月5日と6日の昼休みに開催され、しばらく休眠状態にあった温泉分析法研究会が復活した。

 本大会には、地元を含め約110名の参加があり、活発な研究発表と熱心な討論が行われ、盛会裡に無事終了することができた。また、公開プログラムへの一般参加者は、「温泉資源の保護と地熱発電の共生を探る」には34名、「温泉・健康・美容」には28名で、学会参加者と合わせると約100名であった。

 本大会の開催に際しては、多数の企業や団体からの協賛・講演要旨集の広告へのご協力と共に、福島県、二本松市、福島県温泉協会、岳温泉観光協会のご後援を頂くことができた。また、会場となった陽日の郷あづま館には細部にわたりお世話を頂き、スムーズな大会運営を行うことができた。お世話になった方々に本誌面を借りて厚く御礼申し上げる。

 

【公開パネルディスカッション「温泉資源の保護と地熱発電の共生を探る」:平成25年9月4日】

 2011年3月の東北地方太平洋沖地震とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故以来、日本のエネルギー戦略は、原子力発電から自然エネルギーの活用へとシフトしつつある。我が国はプレート境界にあるため、火山や温泉に恵まれ、地熱資源は2,300万kWあると期待されている。地熱発電開発の適地には既に温泉観光地が開発されていることが多い。環境省は国立公園内にも地熱発電が設置できるように、平成23年度に規制を緩和してきているが、最も大きな問題は、年間1億2千万人以上の国民が利用している温泉資源の保護と地熱発電の共生である。日本はこのような自然エネルギーの活用面でも世界をリードすることが望まれる。こうした国レベルでの地熱開発に関する施策とは裏腹に、温泉事業者と地熱事業者とは相互の対話と情報の共有が決定的に不足しており、むしろ対立関係にあるといって良い。

 こうした背景のもと、日本温泉科学会の呼びかけにより、温泉事業、地熱開発企業に関係する個人が集まり、「温泉事業者と地熱事業者の意見交換会」を、(公財)中央温泉研究所所長の益子 保氏らが中心となり、昨年(平成24年)6月30日に立ち上げた。そこで、今回は益子保運営委員が中心となり、公開パネルディスカッションを開催することとなった。

 第66回大会運営委員長の井上(大妻女子大学教授)により「共生を探る」ことが重要であるとの挨拶に始まり、益子氏がパネリストの紹介を行った後、話題提供は、益子氏による「地熱開発に対する温泉事業者と地熱事業者の認識について」を皮切りに、産総研顧問の野田徹郎氏が「地熱発電の温泉への影響を科学的に考える」、日本温泉科学会会長の西村 進氏が「地熱利用の諸問題」、筑波大学の田中 正氏が「地熱発電と温泉資源の共生を図るために」の4名により行われた。次いで益子氏が司会となり話題提供者の3名がパネラーとなりディスカッションが行われた。ディスカッションはパネラー同士ばかりでなく参加者からも質問があり、地熱発電所の設置が検討されている磐梯朝日国立公園の一角にある岳温泉地域の関係者は、本テーマに高い関心があることが示された。

大会参加者集合写真

大会参加者集合写真

司会の益子氏と話題提供者

司会の益子氏と話題提供者

 

パネラーの三名

パネラーの三名

パネルディスカッション参加者

パネルディスカッション参加者

 

【一般講演:平成25年9月5日、6日】

 一般講演は2日間に分けて行われたが、講演数は22件で内訳は温泉科学・医療5件、地球科学8件、温泉管理2件、生物・生態4件、温泉分析3件であった。

 

【ポスターセッションコアタイム:平成25年9月5日】

 ポスターセッションの発表数は7件と少なかったが、内訳は地球科学1件、生物・生態2件、温泉管理2件、温泉医療1件、人文科学1件であった。ポスター賞には大沢真澄(東京学芸大学名誉教授)会員の「江戸時代、宇田川榕菴による奥州温泉水の化学分析」が選ばれた。

一般公演の様子

一般公演の様子

ポスター発表の様子

ポスター発表の様子

 

【理事会・評議委員会:平成25年9月4日】

 平成25(2013)年度第2回理事会は7名の理事、第2回評議員会は16名の評議員と 2名の参与の出席を得て開催された。各委員会からの報告、名誉会員、功労賞、奨励賞受賞者の紹介、平成26・27年度役員選挙の結果報告、平成27年度第67回大会の予定等についての報告、佐藤 純監事のご逝去に伴う監事1名の補充(甘露寺泰雄名誉会員)があり、了承された。

 

【総会:平成25年9月5日】

 野田徹郎庶務委員が司会を行い、西村 進会長により総会の開会宣言・挨拶があり、佐藤 純会員のご逝去に対し、1分間の黙祷を捧げた。議長は会則第24条により会長が指名された。総会では平成24年度の事業報告と決算報告、平成25年度の事業計画と予算案、評議員選挙の結果、行事委員会の設置提案、功労賞の推薦等が報告・審議され、原案通り承認された。その結果、平成26・27年度の会長は井上源喜会員が務めること、名誉会員は東京大学名誉教授の綿抜邦彦会員、功労賞は香川大学の佐々木信行会員ならびに和歌山県立大学の宮下和久会員に贈られることが承認された。奨励賞は三重県保健環境研究所の森 康則会員に贈られた。名誉会員証、功労賞、奨励賞が西村会長より授与された。名誉会員の授与は、綿抜邦彦会員が出席できなかったため、愛弟子の佐々木信行会員が代行した。また、宮下和久会員は本務のため欠席した。

 最後に、第67回大会運営委員長の北岡豪一会員(岡山理科大学)から、大会は平成26年9月4日(木)~7日(日)に鳥取県三朝温泉で開催予定であることや大会の準備状況が紹介された。

名誉会員記授与の様子

名誉会員記授与の様子

奨励賞授与の様子

奨励賞授与の様子

 

【懇親会:平成25年9月5日】

 懇親会は陽日の郷あづま館の欅で20:00までの予定であったが、盛り上がり21:00まで延長された。大会運営委員長の井上による協賛企業・団体、後援団体および来賓各位への御礼に始まり、西村会長の挨拶、来賓の福島県保健福祉部薬務課長の在原 登氏、二本松市長の三保恵一氏、大玉村長の押山利一氏、福島県温泉協会長の佐藤好億氏、岳温泉観光協会長の鈴木安一氏、岳温泉管理株式会社代表の大内正孝氏の挨拶があった。乾杯は相川嘉正名誉会員(東邦大学名誉教授)により行われた。宴たけなわであったが、ポスター賞受賞者「大沢真澄会員」の表彰が行われた。また、岳温泉観光協会提供によるNoby (長屋伸浩氏)の華やかなトランペット演奏が会場を魅了した。なお、司会は加藤尚之運営委員が務めた。

 

【奨励賞受賞講演:平成25年9月6日】

 東京理科大学の長島秀行運営委員が座長となり、三重県保健環境研究所・三重大学大学院生物資源学研究科の森 康則会員による講演「温泉資源の有効利用による地域貢献を目指した研究」が行われた。本講演では、これまでに「温泉科学」誌に掲載された研究成果の中から、(1) 温泉付随ガスの代替エネルギーとしての実用化可能性検討, (2) 温泉掘削の一律距離規制の妥当性に関する研究、(3) 放射能泉の地域資源としての活用を目指した空気中ラドン簡易分析技術の開発、について発表された。

 

【公開講演「温泉・健康・美容」:平成25年9月6日】

 岳温泉は昭和30年に国民保養温泉地の指定を全国で7番目、東北地方では1番目に受けている。そのため健康増進のためのウオーキングが盛んで、初級者から上級者向けのプログラムが用意されている。また、現在、我が国は原発事故に伴う放射能汚染や風評被害ばかりでなく、放射能泉の効能や影響についても敏感になっている。公開講演では温泉・健康・美容という視点から、放射能泉の有用性を含め、4名の講師にご登壇頂いた。

 前半2講演の座長は国際温泉研究院代表の浜田眞之運営委員、後半2講演は東邦大学講師の杉森賢司運営委員が担当した。健康保養地医学研究所・北海道大学名誉教授の阿岸祐幸氏には、「温泉療法からみた福島県、岳温泉、天然放射能泉の有用性」、北海道大学大学院教育学研究院の大塚吉則氏には、「森林・温泉などの自然を利用した健康づくり」、法政大学生命科学部教授の大河内正一氏には、「温泉水は若返りの泉」、温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリストの石井宏子氏は「新しい日本の旅・温泉と自然の力を活用したビューティーツーリズム」という演題でご講演頂いた。

 

【エクスカーション:平成25年9月7日】

 エクスカーションは16名が参加し、陽日の郷あづま館を8:30に出発し、浄土平と吾妻小富士火口の見学、裏磐梯五色沼の散策、NHK大河ドラマの舞台である会津若松市の鶴ヶ城を見学、田季野で会津郷土料理に舌鼓をうった後に、高速道路で郡山駅に予定通り16:00に到着した。大会期間中、岳温泉は雨天に見舞われていたが、エクスカーションは好天に恵まれ、吾妻小富士、五色沼、鶴ヶ城を堪能することができた。なお、エクスカーションは杉森運営員がサポートした。

我妻小富士山頂での参加者

我妻小富士山頂での参加者

裏磐梯五色沼(毘沙門沼)での参加者

裏磐梯五色沼(毘沙門沼)での参加者

 

 今回の大会は大会運営委員長の井上が隣接する大玉村出身であることから岳温泉で開催することになった。大会運営委員会を立ち上げ、平成24年12月の大会会場の決定には長島運営委員、平成25年2月の後援依頼・大会打ち合わせには西村会長、8月の最終打合せ・エクスカーションコースの下見には杉森運営委員と共に3回現地に出かけている。

 第65回大会の大塚吉則運営委員長などからは、大会運営の詳細な記録や文書を引き継ぎしていただき非常に役立った。第66回大会の記録は次回の北岡豪一大会運営委員長のもとに申し送りし、大会運営の参考にして頂きたいと考えている。

 大会の運営には誰でも大会が引き受けられるように、印刷費や会場費などの経費節減努めたところ、学会からの大会補助費は全額学会に還付することができた。会場の運営には学会事務局の吉岡由利氏、大妻女子大学の4名の学生、法政大学・大河内研究室の8名の院生・学生がサポートした。

 第66回大会運営委員会は、大河内正一(法政大学生命科学部教授)、加藤尚之(東邦大学医学部准教授)、杉森賢司(東邦大学医学部講師)、長島秀行(東京理科大学理学部教授)、浜田眞之(国際温泉研究院代表)、益子 保(公益財団法人 中央温泉研究所所長)、井上 源喜(大妻女子大学社会情報学部教授)から構成されており、主としてメールなどにより密接な連絡を行った。

 

◆過去の大会開催地一覧

開催年月 開催地(県名) 運営委員長 所属
1 1948.5 城崎(兵庫) 中村清二 東京大学(名誉教授)
2 1949.8 野沢(長野) 中村清二 東京大学(名誉教授)
3 1950.4 勝浦(和歌山) 木村健二郎 東京大学
4 1951.4 嵯峨沢(静岡) 木村健二郎 東京大学
5 1952.7 由布院(大分) 高安慎一 国立別府病院
6 1953.7 飯坂(福島) 高安慎一 国立別府病院
7 1954.7 花巻(岩手) 春名英之 慶応義塾大学
8 1955.7 鹿児島(鹿児島) 春名英之 慶応義塾大学
9 1956.7 松之山(新潟) 岡田弥一郎 三重県立大学
10 1957.7 道後(愛媛) 岡田弥一郎 三重県立大学
11 1958.7 上ノ山(山形) 松浦新之助 九州大学(名誉教授)
12 1959.7 諏訪(長野) 松浦新之助 九州大学(名誉教授)
13 1960.7 湯来(広島) 松永周三郎 京都第一赤十字病院
14 1961.8 草津(群馬) 松永周三郎 京都第一赤十字病院
15 1962.8 三朝(鳥取) 南 英一 上智大学
16 1963.7 湯瀬(秋田) 南 英一 上智大学
17 1964.7 白浜(和歌山) 伊東祐一 大阪学芸大学
18 1965.6 登別(北海道) 斉藤省三 北海道大学
19 1966.7 別府(大分) 八田 秋 九州大学
20 1967.9 軽井沢(長野) 野口喜三雄 東京都立大学
21 1968.8 芦原(福井) 初田甚一郎 京都大学
22 1969.9 国立教育会館(東京) 大島良雄 東京大学
23 1970.8 札幌(北海道) 福富孝治 北海道大学
24 1971.8 長門湯本(山口) 矢野良一 九州大学
25 1972.7 石和(山梨) 下方鉱蔵 名古屋工業大学
26 1973.7 鳴子(宮城) 杉山 尚 東北大学
27 1974.7 鬼怒川(栃木) 坂本峻雄 住友商事
28 1975.7 湯平(大分) 大内太門 国立別府病院
29 1976.7 浅間(長野) 斎藤信房 東京大学
30 1977.7 温泉津(島根) 豊田英義 広島修道大学
31 1978.7 新平湯(岐阜) 平松 博 富山医科薬科大学
32 1979.8 湯瀬(秋田) 岩崎岩次 東邦大学
33 1980.8 三朝(鳥取) 森永 寛 岡山大学
34 1981.8 繋(岩手) 中村久由 日本重化学工業
35 1982.8 諏訪(長野) 掛川一夫 信州大学(名誉教授)
36 1983.8 伊東(静岡) 小嶋碩夫 国立伊東温泉病院
37 1984.8 奥津(岡山) 杉山隆二 東海大学
38 1985.8 修善寺(静岡) 斎藤幾久次郎 中伊豆温泉病院
39 1986.8 別所(長野) 村上悠紀雄 北里大学
40 1987.8 天ヶ瀬(大分) 山下幸三郎 京都大学
41 1988.8 伊香保(群馬) 木暮 敬 東京大学
42 1989.8 白骨(長野) 鳥居鉄也 日本極地研究振興会
43 1990.8 花巻(岩手) 後藤達夫 岩手大学(名誉教授)
44 1991.8 白浜(千葉) 山根靖弘 千葉大学(名誉教授)
45 1992.8 霧島(鹿児島) 湯原浩三 九州大学(名誉教授)
46 1993.8 城崎(兵庫) 冨士正夫 白浜温泉病院(名誉院長)
47 1994.8 辰口(石川) 阪上正信 金沢大学(名誉教授)
48 1995.8 湯村(山梨) 相川嘉正 東邦大学
49 1996.8 湯川(北海道) 中尾欣四郎 北海道大学(名誉教授)
50 1997.8 湯瀬(秋田) 野口順一 上田病院
51 1998.8 別府(大分) 由佐悠紀 京都大学
52 1999.8 草津(群馬) 長島秀行 東京理科大学
53 2000.8 琴平(香川) 佐々木信行 香川大学
54 2001.8 白浜(和歌山) 宮下和久 和歌山県立医科大学
55 2002.8 下呂(岐阜) 加藤正夫 岐阜県立下呂温泉病院
56 2003.9 別府(大分) 由佐悠紀 京都大学
57 2004.9 昭和女子大(東京) 大山正雄 神奈川県温泉地学研究所
58 2005.9 洞爺湖(北海道) 秋田藤夫 北海道立地質研究所
59 2006.9 秋田(秋田) 松葉谷治 秋田大学(名誉教授)
60 2007.9 鹿児島市(鹿児島) 坂本隼雄 鹿児島大学(名誉教授)
61 2008.9 五浦(茨城) 野田徹郎 日鉄鉱コンサルタント
62 2009.9 京都市(京都) 西村 進 京都大学(名誉教授)
63 2010.9 野沢(長野) 森 行成 野沢温泉旅館組合
  2010.12 70周年記念大会(東京) 宮下和久 和歌山県立医科大学
64 2011.9 有馬(兵庫) 益子 保 中央温泉研究所
65 2012.9 登別(北海道) 大塚吉則 北海道大学
66 2013.9 岳(福島県) 井上源喜 大妻女子大学
67 2014.9 三朝(鳥取県) 北岡豪一 岡山理科大学
68 2015.9 天童(山形県) 加藤尚之 東邦大学
69 2016.9 庄川(富山県) 杉森賢司 東邦大学
70 2017.9 那須(栃木県) 前田眞治 国際医療福祉大学
71 2018.9 別府(大分県) 由佐悠紀 別府温泉地球博物館
72 2019.11 台中(台湾) 浜田眞之 国際温泉研究院
73 2020.11 鴨川(千葉県) 内野栄治  

●過去の日本温泉科学会大会開催地一覧〔PDF形式〕

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