日本温泉科学会の法人化への取り組み
2008 年までに行われた一連の公益法人制度改革により、現在は学術研究を目的とした比較的小規模な学会にも法人格を取得する環境が整備されてきた。文科省や日本学術会議などの指導もあり、任意団体から法人へ移行する学会が増えてきている。一般社団法人は簡単な手続きで設立でき、行政の監督も受けないので、学会のような形態に向く制度である。本学会は「非営利型法人」である「共益活動型一般社団法人」への移行を目指している。法人格を有さない学会は、いわゆる「権利能力なき社団」、「人格なき社団」と呼ばれる団体と見なされ、法律的な位置付けが明確ではない。日本温泉科学会第67 回大会の総会で、本学会が一般社団法人化への検討をすることが承認され、平成27年度および28年度予算には法人化への検討予算として、特別会計からそれぞれ30万円を計上してある。ここでは現在の任意団体の「日本温泉科学会」から「一般社団法人日本温泉科学会」を設立する際の基本方針と問題点等を検討した。なお、主として参考にしたのは、2014年に一般社団法人となった日本科学教育学会および一般社団法人日本温泉気候物理医学会である。〔日本温泉科学会長 井上源喜〕
◆日本温泉科学会の法人化への取り組み〔PDF形式:628KB〕
◆一般社団法人日本温泉科学会定款(素案)〔PDF形式:632KB〕
◆一般社団法人 日本温泉科学会定款(案)へのご意見等のお願い〔PDF形式:181KB〕2016.10.11公開
1.法人化の目的
一般社団法人は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下,一般法人法)に基づいて設立される。法人は非営利性を徹底するなど一定の条件を満たすことにより、「法人税法」の区分で「非営利型法人」になれる。非営利型では、収益事業のみに法人税が課せられ、それ以外は非課税となる。非営利型法人には、(1)非営利性が徹底されている法人と(2)共益的活動を目的とする法人の2種類がある。共益的活動とは、会員から会費を集め、会員の利益を図る活動を行うことである。
法人化は、(1)学会の社会的信用を高める。法に定められた法人として運営することにより、組織の基礎がしっかりするため、任意団体と比べて社会的信用が増す。(2)学会名で法律行為(契約、雇用、売買、貸借)が行えるようになる。任意団体では銀行口座の開設など対外的な契約を学会長個人名で行わなければならない。法人化すれば、責任が会長から理事に分散し、学会が行う行為や構成員の責任・義務が法的に明確な状態で運営されることになる。特にマイナンバー制の導入により、学会の資産は会長の個人資産と見なされる可能性がある。(3)国、地方自治体、法人などと契約により委託事業や共同研究が可能となる。本学会は収益事業がほとんどないので、「非営利型法人」である「共益活動型一般社団法人」とすることにより、国税・地方税の均等割納付のみとなる。
2.将来的に公益社団法人への移行は必要か
本学会は収益事業がほとんどないので、公益社団法人になっても税制優遇のメリットがない。公益社団法人になると事業活動で制約を受けたり、行政庁(内閣府)の指導監督を受けるようになるため、今のところ公益社団法人に移行する必要はないと考える。
3.法人化設立の基本方針
定款や諸規則、組織、運営方法、会計などを関連法令等にあわせて見直すが、新法人への移行をスムーズに行うため、現行の会則や組織・運営方法などを可能な限り踏襲する。現行会則は一般社団法人日本温泉科学会定款と改定する。
4.会員と会費
一般の会員の場合、法人化に際して特別な手続きは必要がない。名誉会員、通常会員、学生会員、講読会員、賛助会員はそのままとする。会費は変更する必要がない。
5.学術大会の大会回数
任意団体を解散し、一般社団法人を設立するが、学会としては同一である。法人は任意団体の大部分を引き継ぎ、平成29年度の学術大会は第70回となる。ただし、学術大会の会計は特別会計と位置づけることにより現行通りの対応が可能である。
6.定時総会とその問題点
一般法人法に則って運営するため、定時総会の手続きや成立要件、議決方法などが変わる。現行の任意団体の総会では「通常会員・学生会員の1/10以上の出席で成立し、出席者の過半数をもって議決する」ことになっている。それに対して、一般社団法人の総会(社員総会)では「“社員”が議決権を有する」ことになり、「全社員の1/2以上が出席し、出席社員の過半数をもって議決する」ことになる。定款の改訂などの重要案件では、全社員の1/2以上が出席し、2/3以上の賛成が必要である。法人になると総会の成立条件が厳しくなるため、全通常会員を“社員”にすることは事務的負担が大きくなり困難である。
もう一つの問題点は法人化した場合、事業期間終了後3ヶ月以内に会計報告の公示をしなければならないことである。現行通り事業年度を4月1日に始まり翌年3月31日に終了した場合、6月末日までに会計報告を公示しなければならない。対応策としては、(1)従来8月~9月に開催されている学術大会・総会を4~6月に開催する。(2)事業年度を第2四半期の7月1日から開始し翌年の6月30日終了とし、学術大会・総会は従来通り8~9月に開催する。(3)現在の評議員を代議員(社員)として、6月に代議員総会を開催し、今まで総会で決議していた事業計画や予算決算を審議決定する。学会会員は代議員総会に自由に参加して発言することできるが評決には加わらないとする方法がある。この場合9月の学術大会は総会ではなく会員報告会とし、会員の意見を聞く場とし審議決定はしない。
7.代議員制の導入
定時総会の問題点を解決するために代議員制の導入を検討する。代議員制を導入して、会員から選ばれた代議員(社員)が総会に出席して議決する。現行の評議員・監事を中心に若干名を追加し代議員(25~30名)とし、6月の評議員会を定時総会(代議員総会)とする。定時総会の議決は代議員総会で行うが、それ以外の会員も総会に参加して自由に発言できるようにするが、評決には加わらない。
8.会員の新法人への自動移行、代議員選挙、役員選挙
法人設立後、会員を新法人へ自動移行するが、現行の評議員選挙は代議員選挙とする。理事長(会長)は代議員の互選により選出する。副理事長(副会長)、理事(各委員会の委員長)は会長が代議員より推薦し、代議員総会で決議する。監事は代議員総会で通常会員より選出する。参与は通常会員より会長が委嘱する。一般社団法人日本温泉科学会定款(素案)は代議員制を導入することとして作成した。
役員は欠員が生じても臨時代議員総会を開催しなくともよいように人数に幅を持たせ、最大数を決めておく。代議員25~30名、理事(会長、副会長を含む)8~10名、副会長2名以内、監事2名以内とする。
9.評議員選挙(平成27年6月)とその後の対応
評議員選挙結果が選挙管理委員会から6月の評議員会に報告された。現行会則に則り評議員当選者20名の選挙により平成28~29年度会長が選任された。第68回大会総会(天童温泉)では評議員20名と会長並びに会長が委嘱した理事7名が承認された。また、監事は通常会員の中から2名
が総会で選任された。
法人化は学会役員ばかりでなく会員への周知徹底を図るため、「日本温泉科学会の法人化の取り組み」および「日本温泉科学会定款(素案)」を「温泉科学」誌第65巻第3号へ掲載すると共に学会ホームページにアップする。また、会員からの意見を求めることとする。第69回大会総会では一
般社団法人移行後の体制についても決めておくことが必要である(代議員30名、理事10名など)。一般社団法人が発足するまでは現体制であるが、一般社団法人に移行するに伴い、評議員は代議員30名(平成27年6月の選挙結果により10名追加し30名)とする。また、定款や代議員等選挙規程等も承認されることが必要である。
一般社団法人日本温泉科学会は、平成29年4月設立予定で、平成29年6月には代議員総会を開催し平成29年度の事業計画・予算決算の承認の運びとなる。会員は代議員総会に自由に出席し、発言することができるが評決には加わらない。第70回大会では総会はなくなり、会員報告会とし、会員の意見を聞く場となる。ただし、今後の行政書士や公証役場との折衝の段階で変更の可能性がある。
10.実施体制の検討
- 法人事務局(予定)
- 法務局や税務署等の窓口業務,会費徴収業務
- 創文印刷工業株式会社
- 〒116-0011 東京都荒川区西尾久7-12-16
- TEL:03-3893-3692/FAX:03-3893-3603
- 学会事務局(庶務一般)
- 従来通り(事務局長の所属する大学や法人等)
- 法人化に関する相談・見積(予定)
- A社:一式216200円(公証役場52000円、法務局60000円、印鑑等を含む)相談と手続き手数料は8万円+税
- B社:一式392800円
- 法人の運営・維持経費
- 現行の議事録に理事会で選出された議事録署名人3名を入れることにより可能である。「非営利型法人」である「共益活動型一般社団法人」とすることにより、国税・地方税は納付する必要はないが、均等割の7万円は原則発生する。会計関係は一般会計、学術大会を特別会計、特別会計は基本財産(?).とすることにより現行通りの対応が可能で、新たな経費は発生しない(公認会計士および行政書士の見解)。創文印刷工業(株)に法人事務局を依頼する場合2万円(税抜き)が発生する。なお、公認会計士を依頼すると約10万円が必要となる。
11.法人化のロードマップ
- 2014年9月4日
- 第67回大会の総会で「一般社団法人」設立の検討の承認
- 2015年3月21日
- 理事会・評議員会にて一般社団法人化への問題点の検討と定款の提案と審議
- 2015年4~9月
- 定款の審議熟成と行政書士や公認会計士との協議
- 2015年6月28日
- 理事会・評議員会にて一般社団法人(案)の継続審議
- 2015年9月10日
- 第68回大会の総会で一般社団法人化の審議(継続)
- 2015年9~10月
- 学会役員からの意見の集約
- 2015年12月
- 学会誌第3号および学会ホームページに「学会法人化の取り組み」および「定款(素案)」を公開し、会員からの意見を集約
- 2016年2~8月
- 会員からの意見を踏まえ理事会・評議員会で審議(継続)
- 2016年9月
- 第69回大会総会で法人化を審議決定(定款、代議員・役員、選挙規程等の承認)
- 2016年10月~2017年2月
- 行政書士法人等と契約して手続きを進める(契約は定款を作成するため2016年7月に締結)
- 2017年2~4月
- 公証役場で定款の認証手続きおよび法務局への設立認証申請手続き、「一般社団法人日本温泉科学会」の発足。所轄税務署等への届け出
今後の対応
一般社団法人化に関する業務は、事務局の負担を軽減するため、会長の井上が中心になって進める。本件に関する改善点、問題点や疑問点については平成28年3月10日までに、井上会長にメール、電話またはファックスで連絡する。なお、一般社団法人設立に否定的な意見の場合は、その理由も述べることとする。
〔連絡先〕井上源喜:genki@otsuma.ac.jp(@を半角にしてください)
TEL:042-339-0088、FAX:042-339-0044
※なお、法人化の取り組みの内容は、その後の検討により一部変更されている(定款参照)。